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  • 第3回婚活シンポジウム 婚活のその先へ 開催レポート

ディスカッション「これからのパートナーシップ教育が少子化を救う」

染矢氏と黒田氏

不妊治療は女性にフォーカスされがちの中、男性不妊治療を専門とし、ヒト精子に関する研究を行っている黒田氏と、正しい避妊の仕方など中高生への性教育やライフプランニングプログラムの啓蒙活動を行っている染矢氏にこれからの「パートナーシップ・ライフデザイン教育」の在り方についてディスカッションしていただきました。

プロフィール
黒田 優佳子 氏医学博士
くろだ ゆかこ
黒田 優佳子

慶應義塾大学医学部、同産婦人科学教室大学院卒業。ヒト精子研究の第一人者。東京大学医科学研究所研究員、女性初の慶大産婦人科医長を経て、2000年、自身の基礎研究に基づいた最先端の知識と技術を駆使した不妊治療を実現するため、独立。現在、黒田インターナショナル メディカル リプロダクション院長として不妊治療で産まれてくる子ども達の健常性向上を目指して日々の診療と講演活動に力を注いでいる。

染矢 明日香 氏NPO法人ピルコン理事長
そめや あすか
染矢 明日香

自身の経験をきっかけに、慶應義塾大学在学中にピルコンを設立し、2013年NPO法人化。医療従事者などの協力を得ながら、大学生・若手社会人のボランティアと共に中高生やその保護者を対象に性の健康やライフプランニングを学ぶ講座を行う。2016年度からは杉並区協働提案事業「すぎなみレッドリボンプロジェクト」を推進。著書に『マンガでわかるオトコの子の「性」』

残間さん
モデレーター残間さん

「結婚」と言うけれどその先にあるもの、その前にあるものを包括して考えなければ本当の少子化対策にならないという問題意識があります。
性教育というのは、私も息子に向かってどのようにすることが正しいか分からず今日に至っています。
また、いざ結婚してみて子どもがなかなかできないという現実にぶつかった時にどうするか、という問題は、シームレスに婚活の延長線上にあります。
結婚というものを考える前に、パートナーシップを改めて考えようということで、今回このトークセッションを設けさせていただきました。

今回のテーマの経緯について説明するモデレーターの残間氏
▲今回のテーマの経緯について説明するモデレーターの残間氏

性教育の現状について

染矢さん
染矢さん

学校における性教育は、学習指導要領に則り実施されていますが、学校の先生にはかなりハードルの高い科目だと思われます。実際の若者の性行動はどうかと言うと、性行為をしたことがあるのは、中学で20人に1人、高校では4~6人に1人と言われています。きちんとした教育がなされないまま、友人や先輩から、あるいはアダルトビデオで性情報を入手しているのが現状です。

2011年「第7回青少年の性行動全国調査」
染矢さん
染矢さん

問題に感じているのは、近年、性やセックスについて否定的なイメージをもつ若者が増えていることです。
背景には、ネットで得られる性情報はアクセス数を増やすために過激・暴力的になっているため、性のタブー視が進み、 ネガティブなイメージに偏っていっていると考えられます。

残間さん
残間さん

教育の現場では、性は個人的なものなので切り離したいという考えがあると思うのですが・・・。

染矢さん
染矢さん

先生のなかでも、もし自分のことを聞かれたら答えられない、という不安もあるそうです。

残間さん
残間さん

一方で家庭の性教育もあまり進んでいないですよね。

性教育の現状について語るピルコン代表の染矢氏
▲性教育の現状について語るピルコン代表の染矢氏
染矢さん
染矢さん

私はPTAに呼ばれて講演会をすることもありますが、多くの親は自分の子どもに対して性の話をしづらいと仰っています。
それもあって書籍を作ったという経緯があります。
私自身、予期せぬ妊娠・中絶を経験したことによって性教育というのはその後の人生に影響があるんだなと痛感しました。

残間さん
残間さん

ご自分の体験を話すことによってみんなが自分事として聞いてくれるということもあったのでは?

染矢さん
染矢さん

まさか自分が当事者になるとは思っていなかったので、
「もしかしたら自分も将来そうなるかもしれない」と思って聞いて欲しいという思いはあります。

若い人達に性ついて真剣に考えてほしいと伝える染矢氏
▲若い人達に性ついて真剣に考えてほしいと伝える染矢氏
残間さん
残間さん

閉鎖的、裏側で解決しなさいということが多い中、染矢さんが仰るのは勇気があること。
そういうことがないと話を聞いてくれないのが現状ですか?

染矢さん
染矢さん

それは感じます。こういった経験をオープンにすることで、若い子に「自分としてはどう対処するか?」という考えにもっていってほしいと思っています。
また、若者の恋愛離れ・セックス離れも進んでいるため、性や恋愛・パートナーシップについて向き合う・考える機会も必要だと思っています。コミュニケーションとして、どのように性を捉えていくか、自分自身で考えてパートナーと共有しながら人生を送っていく土台作りをすることが大切だと思います。

残間さん
残間さん

ありがとうございました。
それでは、続いて黒田先生から「不妊治療の現状」についてお話をお願いいたします。

不妊治療の現状について

日本の不妊治療の現状について言及する黒田氏
▲日本の不妊治療の現状について言及する黒田氏
黒田さん
黒田さん

日本において不妊夫婦は5組に1組、年間約50万人が不妊治療をして、約20人に1人が不妊治療で産まれています。
妊娠できないのは、どうしても女性の問題でないかという固定概念がありますが、実は男性側の精子の責任というのがとても大きいのです。
そこで、精子学の視点から見た不妊治療について詳しくお話をします。

不妊の原因は約半分が精子側にあります。そのうち9割が原因不明の精子形成障害です。
どうして精子がうまく作られないのかの原因はいまだにわかっていません。

そんな中、不妊治療技術も急速に普及し治療の中では顕微授精が主流で、全体の80%を占めています。
顕微授精という技術に依存させざるを得ないのが現状です。
人為的に受精させるたいへん効率的な手法ですが、卵子や胚発生、胎児にどういう影響があるか、安全性が確認される前に普及してしまいました。

また、どのような性質を持った精子を刺せばよいか、ということは議論されていませんでした。
基準に適合する精子がなくても、顕微授精を中止することはないのです。どのような精子を穿刺するかは出生児の健常性に直結するのに。

産まれてくる子どもの安全が最優先です。顕微授精をしないで済むならできるだけ回避してほしいと思っております。
それでも不妊治療が必要であれば、「精子の品質管理」がとても重要なのです。

残間さん
残間さん

精子の品質管理をする上で良好な品質管理方法というものはあるのですか?

黒田さん
黒田さん

なかなか原因は分かっていませんが、対処療法としては、一部は暴飲暴食や過労・ストレスという生活習慣が影響している場合も考えられなくはないので生活指導をすることもあります。

残間さん
残間さん

最近は不妊検査にいく男性も多いですよね?
そこでは精子が動いていればOK、数があればさらにOKとなっていると思いますがそれは間違い?

黒田さん
黒田さん

現状では動いていればOK、数があればさらにOKという診断になっていますが、実際それは正しくないと私は考えております。

石坂さん
石坂さん

男性側は少し調べるだけで終わりますよね。女性は時間も長いから負担が大きいなという印象です。
本当は男性に原因があるかもしれないのに女性だけに負担がいくというクリニックがあるのでしょうか?

今の不妊治療は女性への負担が大きすぎると訴える事務局長の石坂氏
▲今の不妊治療は女性への負担が大きすぎると訴える事務局長の石坂氏
黒田さん
黒田さん

そうですね。申し上げにくいですが、そういうことです。

残間さん
残間さん

不妊治療がビジネスとして成り立っているということがかなり大きい要素ですよね?

黒田さん
黒田さん

残念ですがそういうことですね。お金は女性の方がかかっています。

未来の子どもたちのために正しい在り方を広める

日本の性教育は遅れていると説明する染矢氏
▲日本の性教育は遅れていると説明する染矢氏
染矢さん
染矢さん

少子化対策ということで、妊娠・出産に関する医学的・科学的授業はされていますが、勿体ない事例があるので紹介します。高校生向けの副教材で「妊娠しやすさ」のグラフを掲載したのですが、恣意的に22歳がピークになるように調整されたり、間違って引用された論文のグラフを改変して載せたりなどがありました。また、人権の視点から考えると「セクシュアル・リプロダクティブヘルス・アンド・ライツ」という概念があり、これは「人々が安全で満ち足りた性生活を営むことができ、生殖能力をもち、子どもを産むか産まないか、いつ産むか、何人産むかを決める自由をもつことを意味する」基本的な人権として定められているものです。

その立場に立った時に、日本は十分な情報や手段を得ることができているかと考えると、足りていない状況だと思います。

国際的には研究が進んでいて、各年齢に応じて性の情報提供の仕方をまとめたものがあります。若い人たちが性行為をする・しないを決められるガイダンス・指標があるのです。EUはこれにそった授業が必修化されています。東アジアでもガイダンスに沿った性教育指針が進んでいる国があるのですが、日本は進んでいないのです。

残間さん
残間さん

日本と海外の学校での性教育の大きな違いはどのあたりですか?

染矢さん
染矢さん

まず情報量が違います。また日本は性行為をしてはいけない、というスタンスがあります。
性行為をする前にきちんと学んでいく、というスタンスが海外です。そこの違いは根が深い問題です。

石坂さん
石坂さん

学校と両親の連携によって適切な教育はできないのでしょうか?

染矢さん
染矢さん

今のところ連携はありません。ドイツの例を挙げると、子供が思春期を超えると健康省から両親に手紙が届き、性教育の教材が送られたりするのです。子供の性の教育を見守っていく土壌ができています。日本でもそういった形で連携していくのは理想かもしれないと思います。
これからの社会で求められることとして1つは、科学的な性の知識の取得を学ぶ機会を保障しておくことが大切だと考えます。「自分にも関係がある」という当事者意識をもたせることが必要です。産婦人科=赤ちゃんを産むところ、と考えることが多いので、医療機関の受診ハードルを下げることも必要です。例えば大学の入学ガイダンスでアルコールについて話すのと同じように、性についても話してみる、科学的な知識を身に着けることが大事だと考えます。

もう1つは、性について話し合える文化を築くことが大切だと思います。性についてのタブー感がどうしてもあります。「人生に関わる大切なこと」として向き合い、話し合える文化を築くことが必要です。そのためにはまず大人が向き合うことが大事です。

石坂さん
石坂さん

私は、親と学校がある程度は連携して一定の役割を果たしていくのが良いと思います。

黒田さん
黒田さん

我が家を例にすると、とてもオープンな性教育をしています。ただ、子どもが精神的に大人になるのは個人差があるので、常に子供の資質を見極めて一対一で向かい合うことが大事だと思います。

残間さん
残間さん

それでは、続いて黒田先生「未来の子どもたちのために正しい在り方を広める」をテーマにお話いただけますでしょうか。

精子の品質管理の徹底について訴える黒田氏
▲精子の品質管理の徹底について訴える黒田氏
黒田さん
黒田さん

先ほどの「精子の品質管理」のお話から続くのですが、見た目だけでは機能異常精子は分からないため、安全性戦略の1つ目として、機能異常精子を見極める方法論の確立に成功しています。

頭部が楕円の精子(一見正常に見える精子)であっても様々な機能異常が見つかることが多く、現状の精子評価では不十分だということをお伝えしたいのです。精子側の解析レベルが向上するということは、見えなかった異常が見えてしまうということになり「これでは顕微授精できない」という気持ちになります。

従いまして、機能異常精子を排除することが治療の安全性向上にいかに重要かご理解いただけたことと思います。

顕微授精では卵子に穴をあけますが、穴をあけることがどういった影響を与えるかも解明されていないのです。不妊治療の安全性戦略のもう1つとして、顕微授精を回避することを目的とした新しい対外授精法、人工卵管法の開発に成功しています。従来型の体外受精はたくさんの精子が必要なりますが、人工卵管法は、卵管で受精する精子の数が極めて少なくて済む、というところに着眼しました。

この人工卵管法の導入、および精子選別精度の向上により体外受精の限界点が下がっている、体外受精の適応の幅が広がっている、ということになります。

ただそれでも顕微受精をせざるを得ないという場合もあると思います。その場合は、繰り返しとなりますが、精子の品質管理を徹底していただきたい、できるだけ機能異常精子を排除して高品質精子の選別に努めていただきたいです。

残間さん
残間さん

こういった問題を一般の病院で認識することは難しいですか?
人間ドックの項目に入れるなどは難しいと思いますが、そこまでいかないと根本的な解決は難しいですよね?

黒田さん
黒田さん

いまは残念ながら難しいですね。。。

石坂さん
石坂さん

本日お話いただいた内容は、普段では知りえない専門的な知識ですが、向き合わなければいけない問題として、生活者の視点で知っておいたほうが良い問題ですね。

事務局長の石坂氏、医学博士の黒田氏、ピルコン理事長の染矢氏、モデレーターの残間氏
▲(左から)事務局長の石坂氏、医学博士の黒田氏、ピルコン理事長の染矢氏、モデレーターの残間氏