『with』と『Omiai』の運営統括で何が変わる?ユーザーにとってのメリットは?小野澤CEOに聞いてみた
2023年3月1日、人気マッチングアプリ『with(ウィズ)』と『Omiai(オミアイ)』を運営する2社を経営統括するエニトグループを立ち上げ、CEOに就任した小野澤香澄さん。IBJ代表の石坂茂が本社を訪問し、マッチングアプリ業界最前線の取り組みについて伺うと、「とにかく一番に、業界全体の安心・安全対策に取り組みたい」という熱意に満ちた言葉が返ってきました。
(左から)株式会社IBJ 代表取締役社長 石坂 茂、株式会社エニトグループ 代表取締役グループCEO小野澤 香澄さん
自身もマッチングアプリ婚。「一人の人の人生に与えるインパクトがとてつもなく大きい仕事」
IBJ代表・石坂茂(以後、石坂):小野澤さんは日本のマッチングアプリ業界のパイオニア的存在ですが、事業に飛び込むきっかけは何だったのでしょう?
エニトグループCEO・小野澤香澄(以後、小野澤):リクルートに新卒入社し、テクノロジーを使った新規事業企画の募集に「ゼクシィでマッチングサービスをやりたい」という提案をしたのがきっかけです。プロジェクトを進める中で、アメリカで伸び盛りだった「eHarmony(イーハーモニー)」などのマッチングサービスの裏側を見せていただく機会がありました。昔から「価値観の多様性を広げる」を人生のミッションとしていたこともあり、すぐに「これ、面白い!」「マッチングサービスは自分の天職だ」と直感したんです。
ちょうど私自身も、同僚や友人など周りがだんだん結婚していって交際相手の候補となり得る方が少なくなっていったり…というリアリティに直面していた時期。「自分のためにも、日本に適したサービスを開発したい!」という思いが湧き上がりました。
石坂:結婚相談所でもそうですが、マッチングのやりがいって、お客様の人生の次の扉を開けるお手伝いができることですよね。
小野澤:まさに。だからこそ「この仕事でキャリアを終えたい」と思うほど、没頭できました。そして、私自身もマッチングサービスを通じて夫と結婚したんです(笑)。その経験を通じて、どこに住むか、どこで働くか以上に、人生において「誰と生きていくか」って本当に大事だと思うようになって。今でも「一人の人の人生に与えるインパクトがとてつもなく大きい仕事」だと、日々噛み締めながら取り組んでいます。
「結婚を見据えた人とのまじめな出会い」をアシストするOmiai
石坂:『with』と『Omiai』、それぞれのサービスにはどんな特徴、違いがあるか、教えてください。
小野澤:仮に「結婚」をゴールとした場合、IBJさんのような結婚相談所はステップを区切って、短期で確実に結婚へ導いていくサービスですよね。
石坂:はい。「1年後には結婚」を目標にスケジュール設定をするので、最初にお見合いしてから3ヶ月をめどに、結婚に向けた意思確認をほぼ全員にしています。成婚まではとてもスピーディです。
小野澤:『Omiai』はそのすぐお隣りにいるイメージですね。「今すぐ結婚」の時間軸ではないにしろ、「次に付き合う方とは結婚したい」と、真面目な出会いを求める方向けのサービスです。コアユーザーは20代後半から30代。短い時間で心からいいと思えるお相手を探すため、つまり「長く使い続ける」より「早く卒業していただく」ためのアプリなので、シンプルでわかりやすい操作性もお客様の評価をいただいています。
石坂:私も「結婚を視野に入れて恋愛から始めたい」方には『Omiai』をおすすめしています。マッチングアプリの中では一番と言っていいほど安全性が高いですし。
小野澤:ありがとうございます。お客様の体験をより安心安全なものとするために『Omiai』では生体認証技術を用いてオンラインで本人確認を行うeKYCシステムを導入しました。また、お客様同士のチャットで不正が疑われるようなケースはAIで検知して、カスタマーサポート担当者が直接介入させていただくこともあります。安心安全に対する意識は、業界内でも特に高いサービスと自負しています。
「20代の恋人探し&自分探し」をサポートするwith。奥手な人のサポート機能も充実
石坂:一方で『with』は、もう少し若い年代がターゲットですよね。
小野澤:はい。結婚前提というだけでなく、真面目な恋愛をしたい20代を中心にした「恋人探し」と「自分探し」をサポートしています。
皆さんはどうかわからないのですが、私は20代の時、自分が何者でどんな人が合うのかわからず、アワアワしていた時期がありました。自分のプロフィールを書く時も「あれ?自分って何者だろう?」と手が止まってしまう。『with』では、BIG5を参考にした性格診断テストをもとにプロフィールが作成できたり、2週間に1度届く心理テストに答えることで、新しい出会いが見つかるように設計されています。自分のタイプを理解した上で、合うタイプのお相手との出会いをサポートするためです。また「好みカード」を埋めていただくと、「同じミュージシャンが好き」「食の好みが合う」など、相手との会話のきっかけがつかみやすいんですよね。
小野澤:『with』は奥手な方にこそ使っていただきたいアプリです。チャットで一定量のコミュニケーションが続いているのに中々デートに至らないお2人に「そろそろデートを誘ってみては?」と促す機能や、トークアドバイスをする機能もついています。仲人さんのレベルまで行かなくても、「次の一歩」を踏み出せない方をどう後押しするか、常に考えながらプロデュースしています。
リアルイベントでマッチングした7割がカップル成立の実績も
石坂:ユーザーが参加できるリアルイベントも開催していると聞きました。
小野澤:はい。年に数回企画しています。2022年12月にカフェイベント「価値観パーラーwith」(※3)を企画したところ、アプリユーザーのカップルが初デートで訪れてくださったのはうれしかったですね。
またハロウィーンに合わせて、10月には「Omiai ホラー救急車」(※4)も開催しました。5分間のお化け屋敷型体験イベントで、偶然乗り合わせたお相手と一緒に宝箱を開けるんです。その共同作業でお互いを気に入ったお2人には、マッチング記念のプレゼントとしてカフェ利用券をお渡ししました。その後7割程度は、カップル成立に至ったと聞いています。
石坂:ドキドキすると、そこに居合わせた人と恋愛に陥りやすくなる「吊り橋効果」が絶大だったんですね(笑)
2社を経営統括。最初に取り組んだのは「安心安全10か条」
石坂:2023年3月、この『with』と『Omiai』を統括するエニトグループが発足しました。狙いについて聞かせてください。
小野澤:まず何よりも「業界全体の安心・安全対策に取り組みたい」という思いがありました。
これまでも、インターネット婚活サービス事業7社で運営する業界団体・MSPJでは、信頼性向上のための企業側の取り組みとして「独身証明」や「ルール違反の監視」など「7つの約束」を掲げてきました。しかし企業側の努力だけでは、お客様同士が対面した時、残念ながら発生することもある性被害や詐欺被害のリスクをゼロにできません。
そこで今回、ユーザーの皆様ご自身でも意識していただきたい「良縁を安心安全にたぐり寄せるための10か条」(※5)を発信することにしました。信頼関係が築けていないうちは「連絡先をすぐ交換しない」「オープンな場所で会う」「車に乗らない/家に誘わない」といったごく基礎的な項目ばかりですが、改めて周知したいと考えたのです。
石坂:マッチングアプリの認知度はほぼ100%に近づいています(※6)。利用者の裾野が広がっているからこそ、啓発は大切ですよね。
小野澤:本当にそう思います。私がゼクシィにいた頃は、結婚式で「マッチングサービスで出会った」なんてとても言えない時代でした。当時は「結婚相手を自力で見つけられない人が秘密裏に使うもの」のようなイメージがあって(笑)。20年でどんどん利用のハードルが下がり、20〜30代では一般化しています。これまではサービス側でなんとかお客様を守らなきゃと努力を続けてきましたが、やっとお客様側のリテラシー向上のサポートにも取り組める時代になってきました。
石坂:知らない人同士が出会う時のリスクは、SNSも含めてあらゆるオンラインサービスに共通ですが、婚活業界でも、ユーザビリティを確保しながらセキュリティのバランスを確保することは一大テーマです。
小野澤:せめぎあいですよね。生活していて危険な目にあう機会が比較的少ない日本社会に特有かもしれませんが、日本人の多くは危機意識が高いとは言えません。たとえば海外で初対面の人と会う時は、一度離席したら、その場に置きっぱなしだった飲み物を口にしないのは常識です。なにか混入されている可能性があるからです。
石坂:そういった知識をあらかじめ知っておけば、被害を避けられる確率が高まると。
小野澤:そう願っています。日本のマッチングサービスは海外に比べて本人確認も厳しく、かなり安全性が高いのですが、それでも、よく利用されるサービスほど不正目的のユーザーに狙われやすい傾向にあるのは確かです。リスクを少しでも減らすために、今後はMSPJを通じて業界全体にも取り組みを広げていければと思います。
経産省とともに少子化改善の取り組みも開始
石坂:非婚化・未婚化が社会問題になっていますが、統計を見ると、まさに潜在的な「結婚したい層」をマッチングアプリサービスが掘り起こしている状態といえます。マッチングアプリのユーザー数増加と連動して、IBJの結婚相談所も会員数が伸びていますから。
私自身は、誠実で真摯なパートナーシップ構築をお手伝いした先に、多少なりとも少子化改善をアシストできればと考えて仕事をしています。小野澤さんはどうですか。
小野澤:共感します。実は経済産業省からお声がけいただき、少子化対策としての施策も国と一緒に始めているところなんですよ。
国の発表では、合計特殊出生率に影響する要因の9割が「初婚行動の変化」、つまり、「いかに未婚化に歯止めをかけるか」にかかっているとのことでした(※7)。つまり、結婚〜出産の手前にあるデート〜カップル成立の時点から多くのハードルがあるのです。だからこそ経産省も「マッチングアプリ業界全体をサポートしたい、国として何ができるか」と声をかけてくださったのです。
従来は個人ユーザーに向けたニッチなサービスでしたが、20年で国のお役にも立てる業界に育ってきたのかと、感慨深いものがあります。
価値観の多様性に重きを置きながら「誰と生きるか」をサポートしたい
石坂:今後の事業展開について教えてください。
小野澤:エニトグループとしては、良いユーザー体験にこだわりながら、事業展開を進めてまいります。良いプロダクト、良いユーザー体験を提供できると確信が持てるなら、将来的には地方での官製マッチングや、同性カップルのマッチングについても取り組むかもしれません。価値観の多様性に重きを置きながら、「誰と生きるか」をサポートしていきたいですね。
国際基督教大学卒業後、リクルートに入社。先端テクノロジー部署にて新規事業立ち上げを複数経験した後、全社新規事業コンペティション受賞。ゼクシィ縁結びの前身を開発。2013年、The Pokémon Company Internationalに転職し、シアトルにて事業開発に従事。2019年より、Tinder Japan&Taiwanの代表として同ビジネスの成長に貢献。2022年8月withの代表取締役CEO就任。2023年3月エニトグループ代表取締役グループCEO就任。
出典/参考記事
出典/参考記事
1:Omiai お客様のより安心安全に向けてAIを活用した本人確認システム 「LIQUID eKYC」を導入
2:with サービス開始以来初となる心理テスト販売を3月6日より開始
3:価値観パーラーwith
4:Omiai ホラー救急車 in 渋谷ハロウィン
5:エニトグループ 良縁を安心安全にたぐり寄せるための10か条
6:株式会社ネクストレベル マッチングアプリ認知度調査
7:内閣府 令和4年版 少子化社会対策白書 全体版(P.12 注3参照)
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