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2023.10.04

マッチングアプリのトラブル、防ぐ仕組みを犯罪心理学から解説

マッチングアプリの利用者数の増加と比例して、増えているといわれる「投資詐欺」や「ぼったくり」「セクハラ」などの被害。防ぐためには、ユーザー側、運営側でどのような対策を取ればいいのでしょうか。「入門 犯罪心理学」(ちくま新書|※1)など、多くの著書がある筑波大学・原田隆之教授に​​アドバイスを伺いました。

アドバイザー紹介:原田隆之教授
筑波大学教授。博士(保健学)。専門は臨床心理学、犯罪心理学、精神保健学。法務省、国連薬物・犯罪事務所(UNODC)勤務を経て現職。主な著書に「あなたもきっと依存症」(文春新書)、「子どもを虐待から守る科学」(金剛出版)、「痴漢外来:性犯罪と闘う科学」「サイコパスの真実」「入門 犯罪心理学」(いずれもちくま新書)、「心理職のためのエビデンス・ベイスト・プラクティス入門」(金剛出版)など。

マッチングアプリを使った「投資詐欺」相談件数は4年前の20倍以上

ブライダル総研の婚活実態調査2022(※2)によると、2021年に結婚した人のうち、婚活サービスを利用していた人は34.1%。そのうち実に4割が​​、恋活・婚活サイト、そしてマッチングアプリ​​を使ってお相手と出会っていました。増えるユーザー数に比例して、ネット婚活でのトラブルも増えています。
国民生活センターによると、マッチングアプリで出会った人に投資話を持ちかけられ、お金をだまし取られるといったトラブルの相談件数が、2022年度は993件と、4年前の20倍以上になっています(※3)。たとえば以下のような4種類のトラブルは、よくメディアでも取り上げられます。

恋心を利用し、金銭をだまし取られるケース:国際ロマンス詐欺被害恋愛詐欺被害
投資話を持ちかけられ、金銭をだまし取られるケース:投資コンサル詐欺被害暗号資産投資詐欺被害
飲食店や風俗店に誘導し、金銭をだまし取られるケース:ぼったくり被害
セクハラなど性的被害を受けるケース:性的被害

犯罪心理学が専門の原田隆之教授に伺うと、「マッチングアプリに限定した犯罪を専門的に研究しているわけではないのですが」と断った上で、「最近読んだいくつかの『オンラインデーティング』、つまりネットサービスを介した恋愛に関する論文(※4)の中で、非常に面白い傾向が見えました」と教えてくれました。

「若いほど無謀」はマッチングアプリでは真逆。リスクを冒す中高年心理とは?

「大学生など20代の世代と、もう少し年齢を重ねた30代以上の世代を比較すると、リスクに出会う頻度がかなり違うという傾向が出ているというのです。『こういうことを言われたら危ない』『知らない相手だ、気をつけよう』と思って行動するのはむしろ若者で、30代を超えたあたりからリスク感覚が鈍ってくるというデータでした」

つまり、よくある「若者は無謀」とか「多少危険でも飛びつく」という思い込みは、ことマッチングアプリでの恋愛に関していうと、まったく逆だというのです。

「意外な方も多いでしょう。30代以降の方がリスクを冒しやすい心理状態に陥る理由は大きく分けて二つあると思います。

一つは若い人はいわゆる『デジタルネイティブ』であること。幼い頃からいろいろなオンラインサービスを使いこなし、ネット上の環境にも慣れている世代です。学校で安全指導を受けたり、実施にヒヤッとする経験もしていたりするので、『オンラインで知らない人と出会うことには危険が伴う』と多くの若者が認識しています。


他方で、30代を超えてくると出会いも少なくなってきて、焦りが生じます。それまで奥手だったかどうかもあるとは思いますが、まず『出会うこと』にフォーカスしすぎて、状況判断が甘くなったり、注意がおろそかになった結果、リスク感覚が下がってしまう傾向があります。今までのお付き合いで成功体験があったとしても、やっぱり『次の人はそうじゃないかもしれない』という認識を心の片隅においておくことが、非常に重要でしょうね

確かに、投資詐欺にしろぼったくり被害にしろ、マッチングアプリを介して金銭を騙し取られる被害では、30代後半から70代が被害にあうケースがよく報道されています。恋愛や結婚に焦る中、あるいは老後の孤独を恐れる中、見知らぬ相手への警戒感が二の次になってしまうことも、大きな要因かもしれません。さらに、本来婚活していたはずがいつの間にか投資話で被害に陥りやすいのも、​​金銭的余裕がある程度ある年代だからこその落とし穴とも言えます。

「普段出会えないようなキラキラした人」との出会いはネットでもそうそうないと心得る

国際ロマンス詐欺では、おぼつかない日本語で語りかけてくる相手が「英国陸軍の弁護士」「アメリカ国籍の軍医」など、身近にはあまりいない職業を騙る例があります(※5)。「肩書を信じ込ませるような証明書や画像を見せる」「それらしい裏話を聞かせる」ことで信じ込ませるといい、検挙した警察では「相手が非現実的な存在ほどのめり込みやすい」と指摘しています。

マッチングアプリを提供する運営企業側も、このような不審者やなりすましを弾く対策(※6)、監視体制(※7)を構築しています。また業界団体として安心・安全にマッチングアプリを使用する際のガイドライン(※8)​​なども発信して、啓発に努める動きもあります。当サイトでもトラブル・犯罪被害を未然に防ぐためのリスク回避コンテンツ(例1例2例3)を発信していますが、専門家から見て対策は十分でしょうか。

「アプリ提供側でも、フィルターをかける、登録のためのハードルを高くするという対策はある程度していますよね。アルゴリズムなど、ITを駆使したなりすまし排除と、問題のあるやりとりを追う目視のパトロール、これはなかなか手間はかかるはずですが、両輪で行い続けることが重要です。ただ、これも詐欺師側とのいたちごっこで、完全に防止はできません。やはりユーザー側の“嗅覚”を養う『個人の防御策』の啓発に、最終的には行き着くと思います。​​

たとえば各社がユーザーに注意を呼びかけているように、

・日本語に違和感がある
・プロフィールが盛りぎみ

そんなアカウントは、気をつける必要がありますね。お金持ち、優れた業種など、キラキラした人であることのアピールに対しては、『あまり現実社会で会えないような人とは、ネットでもそう簡単に出会えない』と意識し、冷静にとらえることが重要です。投資詐欺を防ぐために『うまい儲け話はない』と自分に言い聞かせるのと同じ原理です」

プロフィールの書き方から、他に詐欺師などを見分けるシグナルはあるのでしょうか?

「難しいですね。プロフには嘘を書けますから。10か条(※8)に『相手のプロフィールをよく読む』とありますが、これは交際相手を見極めるやりとりの時には有効でも、詐欺犯罪などトラブルを防ぐ上ではあまり意味がありません。詐欺師は騙すプロですから、コミュニケーション能力も高く、対面してもすごくいい人が多く、一見して詐欺師だと気づくことが困難です。

だからこそ『すぐ連絡先を交換しない』『密閉空間で会わない』など、行動で予防するための事前の知識が重要なのです。入会時に10か条を見せてユーザー側の意識を一時的に高めたとしても、使っているうちにリスク感覚はどんどん衰えてきます。一度だけの周知徹底ではなく、折に触れて注意事項に目を通せるよう、啓発すると良いと思います」

エニトグループ 「良縁を安心安全にたぐり寄せるための10か条

日本では遅れていた「性的合意」。安全を守るのは一人一人の意識

マッチングアプリで出会った相手に「体に触られた」「酒を飲まされて強引にホテルに連れていかれそうになった」などの性的被害は、どう防げばいいのでしょうか?2023年6月に「合意のない性行為」を罰する刑法の一部改正が行われましたが、ここでも重要なのが「自分を守るための権利意識の啓発」だと原田教授は指摘します。

「日本の性犯罪件数は一見少ないように見えます。しかし痴漢行為、盗撮、ハラスメントを含めて、日本ほど日常的に女性が性的な暴力のターゲットにされている国というのはないといっても過言ではありません。ただ被害を届けられないだけなんです。アジアは文化的に性的なことをオープンにしない傾向があること、特に日本人は『暗黙の了解』『行間を読む』といった、イエス・ノーをはっきり言わない文化があることも原因の一つと言われています。その上、学校での性教育が不足していることもあって、『被害者にも落ち度があるんじゃないか』『被害を届けるのは恥ずかしいことじゃないか』といった誤った認識が生まれ、犯罪が届けられず暗数になっていることが多かったのです。

でも、二人でお酒を飲んだからといって触られたり性的な行為をされる筋合いはありません。性加害は100%加害者が悪いのです。ですから、ここでも重要なのは個人の啓発です。アプリのサービス提供側も『こういう行為は性加害です』『被害があったら私たちが守ります』『お互いきちんと合意を取り付けてください』と警鐘を鳴らして、意識の向上をする。多くのユーザーが同時に見ることで、何らかの歯止めにはなるのではないでしょうか」

TinderJapanが2022年4月、デートや恋愛における“同意”について考えるオリジナルサイト「Let’s Talk Consent」を公開しています(※)。今後業界全体に広がっていくことが期待されます。

Tinder Japanが制作した性的合意に関する啓発コンテンツ  「Let’s Talk Consent」

マッチングアプリのいい面を伸ばし、安心安全なサービスにするための3つの提言

原田教授によれば、ここ15年で犯罪の発生件数は年々減少し、特にコロナ禍以降の傾向は「人が出歩かないと犯罪も激減して、毎年刑務所が1つ2つなくなるほど」だそうです。その一方で、可視化されない家庭内やオンライン上でのトラブルは増えている可能性もあるとのことです。

「マッチングアプリに関しては、①業界が国や研究者とともに産学協同でトラブル事例を調査すること、②AIで過去の蓄積と新しい知見を把握していくこと、③悪徳業者を排除するために品質保証認証マークを作るなどして安全でクリーンな優良企業にお墨付きを与え、対策を開示していくことなどが、今後の安全な活用につながるのでは」と提唱します。

トラブル防止には警鐘を鳴らしつつも、原田教授は「マッチングアプリのサービスには、ネガティブな面だけではなくて本当にいい面がたくさんある」とも指摘しています。

「出会いが少なくなって、まさに今、少子化が問題になっている中で、あれもこれも危ないんだという色眼鏡でアレルギーを持つのではなく、心理的なバリアを下げて、多くの人がマッチングアプリを使いやすくしていくことは大事ですよね。ユーザー側も、ちゃんとトラブルがあれば届けて、改善要望を出していく。そうやってみんなが安心して使えるサービスに育てていくと良いと思います」

「ロマンスのマクドナルド化」と「選択肢が多いほど誤る現象」

犯罪とは無関係とは承知の上で、「心理学的に、アプリでいい相手を選ぶコツなどはあるのでしょうか…?」と原田教授に伺ってみました。

「前出した論文(※4)でもう一つ面白かったのが、『ロマンスのマクドナルド化』という言葉でした。マクドナルドでメニューを選ぶかのように、マッチングアプリで年収や職業、興味のある項目を機械的に条件で振り分け、理想の相手を選んだつもりでいても、いざ会ってみると全然違うということが多いというのです。やはり恋愛は、セレンディピティ(思いもよらなかった偶然がもたらす幸運​​)的な、自分と相手の間だけしか通用しない何か感じるものが作用する、という内容でした。

もう一つ、「選択のパラドックス」という有名な実験(※10)があります。被験者に『5個のジャムから好きなのを選びなさい』と伝えると、結構スッと選べるのに、21個や30個の選択肢を提示すると、間違った選択をしてしまったり、欲しくもないものを買ってしまうことがあるのです。

結婚相手との出会いに置き換えても「選択肢が増えれば増えるほど、我々は間違った選択をしやすい」というのが、心理的な事実です。

これまでは、同じ村の幼馴染同士とか、親に決められた相手とか、職場で出会った相手とか、狭い世界の中でどうにかうまくいく相手と出会えた時代がありましたよね。今はマッチングアプリで現実世界を超え、あるいは国境までも超えて、ものすごく広い選択肢の中から相手を選べます。先ほどの実験によると、選択肢が増えて恵まれているようでいて、逆に高望みしすぎたり、現実的には合いそうもない相手を選んでしまう可能性もあるのです。

ただ、マッチングアプリを通じて、自分がタイプだとずっと思い込んできた人ではない、いわゆる偶然の出会いによって『ああこういうタイプもいいかも』と気がつく側面もありますよね。

恋愛は人間関係の経験がものをいう、つまり機械的には処理できない、正解がない分野なのでしょう。

この心理学的なジレンマを、サービス提供側が今後どうやってクリアしていくのか。技術を使ってユーザーにどう選択肢を提示していくのかという点が、興味深いですね」

どうやらユーザーが迷わずにベストな恋愛・結婚相手を選ぶには、プラットフォーム側の技術革新も欠かせないようです。

出典・参考記事

1:ちくま新書「入門 犯罪心理学
2:ブライダル総研 婚活実態調査2022
3:朝日新聞 マッチングアプリ使った投資トラブル、4年で20倍超 注意呼びかけ
4:ノースウェスタン大学などの共同研究 Online Dating: A Critical Analysis From the Perspective of Psychological Science / Journal of Crime and Justice Introduction: new directions in cybercrime research
5:読売新聞 愛してくれる存在に頼りたい…相次ぐ国際ロマンス詐欺​​
6:ブライダルネット セーフティーセンター
7:tapple 安心安全なマッチングサービス
8:エニトグループ 「良縁を安心安全にたぐり寄せるための10か条
9:Tinder Japan 「Let’s Talk Consent」
10:バリー・シュワルツ The paradox of Choice

あなたに合ったマッチングアプリ・婚活サービス選び

あなたのライフスタイルやテイストに合ったマッチング選びや婚活サービスの選び方を、以下のコンテンツでご紹介しています。

 

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